マンション DTM DAWルーム
【マンション購入と「だんぼっち」からのスタート】
音楽を思い切り楽しめる空間を求めてマンションを購入されたオーナー様。
購入当初は、市販の簡易防音ブース「だんぼっち」を導入し、遮音シートや鉛シートで性能を強化。さらにウレタン系の吸音パネルを組み合わせ、自ら響きの調整まで施すなど、防音への知識と情熱を持ってDIYを実践されていました。
しかし、「なるべく広い空間で音楽を楽しみたい」という思いは日に日に強くなり、より本格的な防音室を実現するため、バドシーンにご相談くださいました。
ちなみに、この「だんぼっち」は後に弊社で引き取り、性能検証を行った後、YouTube視聴者様にプレゼント。その経緯から製造元とも直接やり取りすることになり、新たな商品開発にも関わるご縁が生まれました。
【限られた空間とマンション規約という二重の制約】
今回の防音室づくりでは、いくつかの制約が存在しました。
まず、マンションの間取りを大きく変更することは不可能であり、限られたスペースの中での工事が前提。さらに、マンション管理規約で定められた条件を守る必要があり、設計段階から慎重な検討が求められました。
こうした制約条件をクリアしつつ、性能と使い勝手の両立を目指したプランニングがスタートしました。
【排水パイプと防音点検口の工夫】
防音室を設置する予定の部屋奥には、上階からの排水管が通っており、メンテナンス用の開口が設けられていました。
恐らく一度も使われたことがない箇所でしたが、この開口を完全に塞ぐことはルール上できません。
そこで、費用のかかる既製品のスチール製防音点検口を採用する代わりに、大工さんの造作工事で防音性を確保しながらもメンテナンスが可能な仕組みを作り込みました。
これにより、必要な機能を維持しつつも、コストを抑えた施工が可能になりました。
【エアコン設置の課題と遠距離配管の挑戦】
もう一つ大きな課題が、エアコン設置です。
対象の部屋は共用廊下側に位置しており、本来エアコン用の電源や配管用の貫通穴がありませんでした。さらに、共用廊下に室外機を設置する許可も管理組合からは下りませんでした。
そこで、室外機を最も遠いバルコニーに設置するプランに変更。しかし、その距離は10m以上。通常より長い配管距離に対応できるエアコン機種の選定や、配管経路の確保、そしてエアコン専用の電源回路増設など、複数の課題を一つずつ解決していきました。
電源は分電盤から分岐して増設し、エアコン専用回路に加えて楽器専用回路も設置。冷媒管は換気扇のダクトスペースを活用してバルコニーまで引き回し、排水ドレンは勾配の問題からバルコニーまで直行できず、トイレの手洗いへと接続しました。
また、「せっかく配管を通すなら将来のためにLANケーブルも一緒に引いておきましょう」という提案を行い、オーナー様にも快諾いただきました。
現在必要でなくても、将来の利便性を見据えた工事は、結果的に満足度を高める要因となります。
【オーダーメイド防音ドアの採用と細部への配慮】
防音室のドアにもこだわりがあります。
既存のドアは部屋のコーナーに設置されており、開口を広げると大掛かりな解体工事が必要になるため、廊下全体の内装もリフォームしなければ違和感が生じる恐れがありました。
そこで、ドアの開口サイズはそのままに、mm単位で製作可能なオーダーメイドのスチールドアを採用。搬入予定の家具や楽器サイズを事前に確認し、必要な横幅を確保したうえで製作しました。
完成後、偶然にも買い替え予定だったテーブルがぴったり納まり、オーナー様とともに驚きと喜びを共有する場面もありました。
【内装デザインと完成後の活用】
内装はベージュを基調とし、アクセントに青と緑の中間色を組み合わせることで、シンプルながらも落ち着きとスタイリッシュさを併せ持つ空間に仕上げました。
これは、オーナー様の落ち着いた雰囲気ともよく調和しています。
完成した防音室は、
・リモート会議
・弦楽器の演奏練習
・DTMやDAWを使った音楽制作・編集
など、多用途で活用可能。広さは決して十分とは言えませんが、一人で音楽を楽しむには十分で、まさにオーナー様の想いが詰まった特別な空間となりました。
「狭くても、自分だけの音楽空間を持つことの価値」を体現した事例です。