防音室の性能表記には嘘がある
皆さん、こんにちは。
防音アドバイザーBudscene並木です。
目的地へのアクセスを調べていて、「駅から徒歩5分」とされているのに実際に歩いてみたら7~8分かかった、というような経験をしたことはないでしょうか。
これは、不動産表示では道路距離80 mを徒歩1分と換算しているので、歩くのがゆっくりだったり坂道や信号で遅れたりすると時間に齟齬(そご)が生じるためと思われます。
今回はこういった、カタログ上などでの記載数値と実際での体感が違う件の、防音業界バージョンについて話しをしていきます。
目次
遮音性能の表記は2通りある
防音材の遮音性能の表記の仕方には次の2パターンがあります。
- 理論値(透過損失値)
- 実測値
理論値は「材料自体が持つ、音を遮ぎる効果」を理想的な環境下の試験室で測定した数値で、透過損失値(TL:Transmission Loss)として表されます。
特に壁に対する透過損失値をTLD値といいます。
実測値は、実際に完成した防音室の遮音性能を規格に沿った方法で測定した数値です。
特に壁に対する実測値をD値といいます。
遮音性能の理論値(透過損失値=TLD値)と実測値(D値)の間にはどうしてもズレが生じます。
それは、実際の防音室にはドアや窓、換気扇、エアコンなどを設置するため、隙間が生じるからです。
隙間から音が漏れるので、実測値(D値)の方が理論値(透過損失値=TLD値)よりも性能的に低い値が出てしまうのです。
そのため遮音性能を透過損失値で記載している防音室の場合、実際の性能は記載数値よりも劣ります。
数値通りの遮音性能は再現できないので気をつけましょう。
もし商材のカタログに「透過損失値45 dBの防音室」という表記がされていたら、それはあくまでも「透過損失45 dBの材料で組み立てた防音室」というだけです。
決して「音を45 dB減衰する防音室である」ということを保証しているわけではありませんので注意してください。
表記の仕方が実測値のみに規定されていたらいいのですが、現状は紛らわしく勘違いが起きやすい状況です。
透過損失値とは
透過損失値TLについて、もう少し詳しくご説明します。
遮音性能は、部屋の部位ごとに次の3つに分類されます。
- D値(sound pressure level Difference)・・・「空気を伝わる音」に対する壁の遮音性能を表す数値
- T値(sound Transmission loss)・・・「空気を伝わる音」に対するドアや窓の遮音性能を表す数値
- L値(floor impact sound Level)・・・「固体を伝わる衝撃音」に対する床の遮音性能を表す数値
透過損失値は「空気を伝わる音がその材料へ到達した前後でどのくらい弱くなるか」のレベルを表し、壁・ドア・窓などの素材のみを考えた場合の遮音性能を意味します。
特に壁の透過損失値を、実測値であるD値と区別してTLD値(Transmission Loss Difference)といいます。
DとかTとかLとか、呼称が紛らわしいですね^^;
透過損失値の測定方法
透過損失値は、規格された装置に材料を入れて測定していきます。
<測定方法の手順>
- 規格通りの装置(コンクリートで覆われ、覗き窓付きの壁で仕切ってある2部屋)を用意
- 壁の覗き窓に材料をはめる
- 壁を挟んだ片方の部屋で音を発生させる
- もう片方の部屋でどのくらい音が聞こえるか測定
上記イラストの例の場合、材料の透過損失値は45-30=15 dBとなります。
実測値と透過損失値にはズレがある!
以前、ある雑誌社から「Budsceneの防音ドアと某建材メーカーA社が販売しているドアとで、どれだけ記載数値に違いがあるのか性能比較をしたい」という依頼がありました。
そこで、A社がカタログ上で35 dB減衰と謳(うた)っているドアに対して「500 Hzで35 dB減衰が本当に実現されているか」を検証してみました。検証は工場での防音実験用のサンプルルームで、同じ条件のもと行いました。
その結果
- A社製の防音ドア → 28 dB減衰
- バドシーン製の防音ドア → 35 dB減衰
という数値が得られました。
しかし、何故A社の謳っている数値と実測値は一致しないのでしょうか。
主な理由は次の2つです。
- 透過損失値で考えている
- 材料の重さが違う
部屋にはドアや窓、換気扇などの隙間が生じます。
A社は材料の透過損失値しか考えず、防音室全体として捉えた時に部屋のつなぎ目の隙間から音が漏れる問題を考慮していないのです。
弊社では、音漏れを防ぐために防音室の気密を上げてドアとドア枠との隙間にゴムパッキンを取り付けたり、ドアを締め付けるためにノブをハンドル式にして工夫したりしています。
しかし透過損失値の測定方法では、そういった試行錯誤の部分が考慮されていないため、机上の値となってしまうのです。
また、謳っている値と実測値が一致しない理由はもう1つあります。
それは重さです。
検証に使ったA社製のドアは50 kg、Budscene製のドアは95 kgでした。
比較すると、重さが2倍くらい違ってきます。
空気を伝わる音に対しては、遮断する材料が重ければ重いほど遮音効果が大きくなることがわかっています。
一般的には、希望する遮音性能に必要な材料の重さを「質量則」という透過損失値を導き出す計算式から予測し、実際に得られるであろう遮音性能の参考とします。
A社がどのようにドアの重さを決定したのかはわかりませんが、質量則を考慮していないのか、計算の条件が合っていないのかもしれません。
このように、防音室の性能は材料の持つ透過損失値だけでは測れないのが現実です。
細部まできめ細かに組み立てて創り上げていく事で、しっかりとした防音性能を持つ空間が完成します。
透過損失値に惑わされるな!
防音材として販売されている商品の多くは、カタログなどに記載されている性能が理論値(透過損失値)なのか実測値なのか見分けがつきません。
そこで目安として、透過損失値で記載されることが多い商品を次に示します。
- 建材メーカーの製品
- 組み立て式の防音ユニット
これらの商品を検討する際は記載の数値を透過損失値とみなし、実際の遮音性能は記載数値の2~3割減で考えるとちょうどよいでしょう。一番確実なのは販売元のメーカーに確認することですけどね^^
まとめ
防音室に利用する材料のカタログには、性能が透過損失値で記載されている場合と実測値で記載されている場合の2パターンがあります。
これを知らずに防音室作りに着手すると、透過損失値を実際の防音性能として勘違いしてしまい、完成後に期待した性能が得られません。
着手前に、説明された性能がどちらの値であるのか見極めて、後悔のないように防音室を作ってください。
私たちBudsceneは、皆さまが少しでも快適に過ごせるようにこれからも様々な防音情報を発信していきたいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。
防音アドバイザーBudscene並木でした。
質問コーナー
Q. 実測値はどうやって測定するのですか?
A. できあがった防音室内でノイズを発生させ、防音室の外で音がどのくらい弱まるかを騒音計を使って確認します。コンクリート製の部屋で行う以外、原理や手順は透過損失値の測定方法と基本的に同様です。
詳しくはこちらで述べています。
【防音室の正しい性能測定】
どうぞご参照ください。
Q. 質量則はどのような式なのか教えてください。
A. 音の入射角や壁の広さなどの条件により、質量則とよばれる式は複数あります。
壁が薄く無限に広がっていて、音波が垂直に入射したと仮定した場合の質量則を次に示します。
透過損失値TL[dB]=20・log(f・m)-42.5
f:周波数[Hz]
m:面密度[kg/m2]
詳しくはこちらで述べています。
【防音室に最も重要な「重さ」と「防振」の話】
どうぞご参照ください。
質量則は材料が重いほど・音の周波数が高いほど透過損失値が上がり、遮音効果が高くなることを表しています。
Q. BudsceneとA社の性能比較をした検証結果を見てみたいので、掲載された雑誌を教えてください。
A. 「A社さんがその雑誌社に広告を出していた」という大人の事情から、この企画は結局ボツになってしまいました。だからどの雑誌にも載っていないんです。残念です(; ;)
関連動画
【防音性能に重要な透過損失というデータには嘘があります!防音工事前に必ず確認 】