ユニット式防音室に潜む罠!重さで防音性能を見極めよう
皆さん、こんにちは。
防音アドバイザーBudscene並木です。
防音市場には、色々な楽器メーカーが販売しているユニット式防音室が出回っています。
パネル式で簡単に組み立てることができるので、楽器演奏やボイスチャットをする際に利用している方も多いのではないでしょうか。
さて、このユニット式防音室の実際の防音効果はどうなのでしょう?!
きちんと表記されている防音性能を実現できているのでしょうか?
この疑問を解消すべく、今回はユニット式防音室の実際の遮音性能を検証していきます。
ただし、商品1つひとつを購入して遮音性能を測定していくのは費用的に厳しいので、代わりに防音室の「重さ」から性能を予想することにします。
「遮音性能の測定ができなければ、重さから推測すればいいじゃない♪」とマリ―・オントワネットさんも言っていますしね!
元ネタはこちらです^^
“パンがなければお菓子を食べればいいじゃない”の発言の流布の真意
目次
重さと防音性能の関連性
何故性能を直接測る代わりに重さに着目したのかというと、「材料の重さが重いほど音を遮ることができる」という法則(=質量則)があるからです。
質量則の式は「遮る材料が重いほど、もしくは遮られる音が高域であるほど遮音効果を得られやすい」ということを表し、音の入射角や壁の広さなどの条件により複数存在します。
音波がランダムな角度で入射した場合の式を次に示します。
透過損失値TL[dB]=18・log(f・m)-44
f:周波数[Hz]
m:面密度[kg/m2]
ユニット式防音室の重さ
重さの検証は楽器メーカー2社(A社・B社)のユニット式防音室3タイプ、合計6種類で行いました。
検証した3タイプの条件を以下に示します。
- D-35・広さ2畳
- D-35・広さ4.3畳
- D-40・広さ2畳
D-〇〇というのは壁の遮音性能のレベルを表し、例えばD-35と表記されていたら、その商品は音を35 dB小さくします、という意味になります。
ユニット式防音室のD値は果たして本当に再現されるのでしょうか?
実際にリサーチしたユニット式防音室の重さを表1~3に示します。
防音室が大きければ重いのは当たり前なので、材料1 m2あたりの重さ(=面密度)で考えていきます。
表1. D-35・広さ2畳の場合の面密度
壁・床・天井の面積 [m2] |
全体の重さ [kg] |
面密度 [kg/ m2] |
|
楽器メーカーA社 | 22 | 400 | 18.2 |
楽器メーカーB社 | 22.8 | 418 | 18.3 |
表2. D-35・広さ4.3畳の場合の面密度
壁・床・天井の面積 [m2] |
全体の重さ [kg] |
面密度 [kg/ m2] |
|
楽器メーカーA社 | 36.6 | 720 | 19.6 |
楽器メーカーB社 | 38 | 716 | 18.8 |
表3. D-40・広さ2畳の場合の面密度
壁・床・天井の面積 [m2] |
全体の重さ [kg] |
面密度 [kg/ m2] |
|
楽器メーカーA社 | 22 | 570 | 26 |
楽器メーカーB社 | 22.8 | 529 | 23.2 |
ではそれぞれの面密度を詳しく検証していきます。
D-35・広さ2畳の場合
まず、D-35・広さ2畳の場合をみてみましょう。
D-35をクリアするために必要な面密度は、本来なら30 kg/m2以上になります。
実際に先ほどの質量則に当てはめて、周波数(音の高さ)f=500 Hz、面密度(1 m2当たりの重さ)m=30 kg/m2で透過損失値を計算してみますね。
透過損失値TL[dB]=18・log(f・m)-44
=18・log(500×30)-44
=18・log(15000)-44
=18×4.18-44
=75.24-44
=31.24
これは音の高さ500 Hz付近では「重さ30 kg/m2の材料で31 dBほどの音量を防ぐことができる」ということを表しています。
つまり、もっと性能が高い35 dBの音量を防ぐためには30 kg/m2よりもさらに重い材料が必要になります。
しかし、メーカーA社・B社で取り扱っているユニット式防音室の面密度は18.2 kg/m2、18.3 kg/m2と、両方とも18 kg/m2前半でした。
こちらも質量則に当てはめて、f=500 Hz、m=18.3 kg/m2で計算してみます。
透過損失値TL[dB]=18・log(f・m)-44
=18・log(500×18.3)-44
=18・log(9150)-44
=18×3.96-44
=71.28-44
=27.28
これは「重さ18.3 kg/m2の材料では27 dBほどの音量しか防げない」ことを表しています。
つまり、メーカーA社・B社のユニット式防音室は圧倒的に重さが足りず、D-35と謳いながらも実際はD-27ほどしか再現できないことがわかります。
ちなみに私たちが作るD-35仕様の防音室は、柱や断熱材、設置するドアなども加味して1 m2あたり40~45 kgの重さをかけます。
(ドアに関しては動くための隙間が設けられているので、ただ単に1 m2あたり30 kgかければよいというものでもありません。隙間から音漏れしてしまうため、その1.5~2倍の重さをかけないとD-35を確保できないのです。)
さらに、徹底した防振や気密性の確保を行っており、パネルを組み立てるユニット式の防音室とは作り方から違います。
D-35・広さ4.3畳の場合
防音室がもっと広くて全体の重さが重い場合をみてみましょう。
メーカーA社・B社で取り扱っているユニット式防音室の面密度は18.8 kg/m2、19.6 kg/m2と、両方とも19 kg/m2前後でした。
広さ4.3畳でも2畳の時と同じように重さが足りないことがわかります。
D-40・広さ2畳の場合
では、性能が5 dB上がってD-40になった場合はどうでしょう。
質量則によると、5 dB性能を上げるためには材料の面密度を約2倍にしなければなりません。
そのため、D-40をクリアするためには60 kg/m2以上の面密度が必要になります。
メーカーA社・B社で取り扱っているユニット式防音室の面密度は23.2 kg/m2、26 kg/m2でした。
どちらもD-40はおろか、D-35に必要な面密度である30 kg/m2さえも届いていません。
このように、記載されている防音性能の数値が同じでも、ユニット式の防音室はプロが作る防音室より遥かに重さ(=性能)が低いのが実情です。
これは数値の記載方法に穴があり、「工場の理想的な環境で材料のみの防音性能を測定した数値」と「防音室として完成し実際に音を防ぐ段階で測定した数値」に差があることも一因です。
詳しくはこちらをご参照ください。
【防音室の性能表記には嘘がある!】
【カタログにはカラクリがある?!防音室購入を失敗しないために】
もしユニット式の防音室を購入する場合は、例えD-35と謳われていても実際に遮音性能を測定したらD-30にも届かないことを覚えておいてください。
防音室の見極め方
それでは、防音室はどうやって見極めればいいのでしょうか。
答えはズバリ!「色々な防音室を見学すること」です。
ユニット式防音室からハウスメーカーや工務店が手掛ける防音室、さらに防音のプロが施工する防音室まで体験して、どの防音室ならば求める性能を実現できるのか判断してください。
その際、聞く音が違ってしまっては公正に比較できないので、防音室の中で出す音も同じになるように自分で音源を用意していくとよいでしょう。
スマホの騒音計アプリを利用すると、どのくらい音が防がれているのか自分で確認しながら安心できる防音室を選ぶことができます。
スマホの騒音計アプリのおすすめについてはこちらでご紹介しています。
【スマホの騒音計アプリで防音対策!】
防音室の行きつくところは「重さ」と「作り方」の2つです。
「特殊な吸音材を使っています」「超高性能のパネルを使っています」というように謳っている商品もありますが、そんなものは存在しません!
売りたいための都合の良い宣伝文句に釣られないように注意しましょう。
まとめ
ユニット式防音室の重さに着目して性能が本当かどうかを検証したところ、残念ながら謳われている性能を再現できる重さではないという結果になりました。
カタログやホームページに記載された通りの性能を信じてうっかり購入してしまっては、目的を果たせず無駄な買い物になってしまいます。
「安物買いの銭失い」にならないように、ユニット式防音室の記載性能は実際の性能とズレがあるということを認識して防音室を選ぶようにしてください。
私たちBudsceneは求められた性能をしっかりと実現できる防音室を提供しています。
音にお悩みの方がいらっしゃいましたらご相談・ご依頼などいつでも承りますので、どうぞ気軽にご連絡ください。
Budsceneのオフィスにて防音室の見学・体験もお待ちしております♪
最後までご覧いただきありがとうございました。
防音アドバイザーBudscene並木でした。
質問コーナー
Q. ユニット式防音室にはどのようなメリットがあるのですか?
A. 価格が安価、防音室の移動が可能、組み立てが1日で完了する、といった利点があります。
そういったメリットを活かせる場合は、ユニット式防音室も良い選択肢だと思います。
Q. ユニット式防音室を寝室として利用できますか?
A. 外部の音が聞こえにくくなり、災害時に気づくのが遅くなる可能性があります。
また地震でドアが開かなくなることも予想されるので、寝室としては利用しない方がよいでしょう。
Q. 防音室内で楽器を演奏したいのですが、どのくらいの減衰値が必要なのかわかりません。
A. まず、自分の出す音がどのくらいなのか確認して、どこへ対してどのくらいまで音量を抑えればよいのかを計算する必要があります。
やり方や手順については、どうぞこちらをご参照ください。
【プロが教えます!必要な防音性能を確実に調べる方法とは】
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