「防音性能を上げてほしい!」賃貸物件オーナーさんからの依頼を解決! -並木の突撃調査File2-
皆さん、こんにちは。
防音アドバイザーBudscene並木です。
先日、ある賃貸物件のオーナーAさんから「管理している賃貸物件で音が筒抜けであるため、入居者が次々に退去してしまう。どうしたらよいか。」というご相談を受けました。
そこで現場に赴き、現状の防音性能の測定・改善方法のアドバイス・施工後の防音性能の測定を行ってくることにしました。
その様子をご報告いたしますので、実際にどのくらいの性能が改善され・どのように問題を解決したのかをご覧ください。
賃貸物件の大家さんや不動産の管理人、これから集合住宅に入居する予定の方などにも参考にしていただければ幸いです。
目次
現場の状況
さぁ、現場に到着しました。
問題の賃貸物件は、軽量鉄骨造の集合住宅です。
Aさんに現在までの状況を詳しくお聞きしました。
弊社へご依頼の経緯は以下のようです。
- 隣の部屋からの音がうるさいという理由で、入居者が次々と退去
- 環境を改善しようと、該当建物を建築した工務店Xに防音対策を依頼
- 防音対策の途中だが、成果を感じられない
- 弊社にご相談
うるさい音というのは具体的には人の会話で、内容まで全て聞き取れるほどの音量だと苦情が相次いだそうです。
会話の内容を全部メモしたものを何日分か見せられたこともあったようです。
相当ひどい状況のようですね💦
性能測定の環境
該当物件には3つの部屋B・C・Dが並んでおり、部屋B・Cの間の壁EにはX社が既に防音対策をしていて、部屋C・Dの間の壁Fにはまだ何も手を加えていない状態です。
そのため、壁E・Fの性能を測定することで、建物の元々の防音性能とX社が対策した後の性能を比較することができます。
真ん中の部屋Cで色々な音域のピンクノイズを流し、部屋B・Dでそれぞれどのくらい聞こえるかを測定することにしましょう。
図1. 性能測定の環境①
なお、弊社では信頼性の高いデータを得るために、建築基準の規格に沿った方法で測定を行うのでご安心くださいね。
X社により壁Eに施行されていた防音対策
壁Eに施行されていたX社の防音対策は次のようなものでした。
- 防音材(石膏ボード、強化石膏ボード(※)、遮音マット、吸音材など)を壁に直貼り
※強化石膏ボード・・・石膏ボードに無機繊維材料を混入したもので、普通の石膏ボードよりも重く防音性能が高い - 石膏ボードを支える垂木が壁Eに触れている
さて、この施工法で防音性能はどのくらい向上しているのでしょうか。
性能測定1. -X社の防音対策後の壁Eと対策なしの壁F-
それでは早速、音量を測定してみましょう。
データが取れましたので、次は計算で防音性能を算出していきます。
測定結果①
測定データから防音性能=部屋Cの音量-部屋B・Dの音量を計算して壁E・Fの防音性能を求めました。
測定結果は何と!壁Eも壁Fもほぼ同じ35 dB減衰ほどの防音性能となりました。
つまり、X社の防音対策では性能が全く向上しておらず、施工しても意味がなかったということになります。
35 dBの防音性能とはどのくらいかというと、例えば一般的な話し声(60 dB)がささやき声(25 dB)くらいになる程度です。
そのため電話などで大きめに喋ったり、テレビのスピーカーがこちら側に向いていたりすると、内容までバッチリ聞こえてしまうこともあり得ます。
X社の防音対策は何故効果がなかったのか
X社も石膏ボードを2枚重ねにしたり、一部には石膏ボードの代わりに強化石膏ボードを使ったりと、防音に取り組もうと努力している姿勢はみられました。
しかし、結果はイマイチ芳(かんば)しくありません💧
一体何故なのでしょう。
その大きな理由は、防音材を壁に直接貼っているから!垂木が壁に接しているから!です。
振動である音は、密度が高い固体より密度が低い気体の方が伝わりにくいという特徴があります。
そのため、防音では音を防ぐ材料どうしの間に空気層を設けることが大切となります。
X社のやり方のように壁に防音材や垂木が触れていると、壁の揺れがそのままダイレクトに防音材や垂木にも伝わってしまい、せっかくの防音材が力を発揮できません。
効果のある防音対策とは
では、効果のある防音対策とはどういったものなのでしょうか。
それはズバリ、壁と防音材を接触させないことです。
以下にBudsceneがAさんに提案した防音対策をご紹介します。
- タイガースーパーハード+遮音シート1枚+石膏ボードで防音層を作る
- 壁と防音層を離して空気層を設ける(10 mmほど空ける)
- 垂木は壁に触れさせない(10 mmほど空ける)
これを部屋Bの壁E、部屋Dの壁Fに行うことで、防音性能を大分改善できるはずです。
図2. 性能測定の環境②
なおタイガースーパーハードは、ビスを止めるために穴を開けると穴の周りが盛り上がってしまい、壁紙などを綺麗に仕上げられません。
そのため、こちらから見えない裏側にタイガースーパーハードを、見える表側に石膏ボードを配置することをおすすめします。
性能測定2. -Budsceneの防音対策後の壁E・F-
~数日後~
防音強化工事が無事に終わったようです。
では再度、防音性能を測定してきます。
前回と同じようにデータから防音性能を算出しますね。
測定結果②
おぉ!35 dB減衰だった防音性能が45 dB減衰くらいになっています!
これは150 mm厚の鉄筋コンクリート造と同じくらいの防音性能です。
前と比べると500 Hz辺りの音域で10 dB以上向上しているし、低音域も劇的に改善されています。
45 dBの防音性能はどのくらいかというと、一般的な話し声(60 dB)が雪の降る音や寝息(15 dB)くらいになる程度です。
これは無音とまでは行かなくても感知できなかったり気にならなかったりというレベルです。
一般的な会話の音量だったら全く問題ないでしょう。
エアコンや冷蔵庫などが稼働していたら、その音に紛れるのでなおさらです。
ただし、物を落とした時やドアを勢いよく開閉する衝突音に関しては、天井や床がつながっている以上どうしても振動が伝わってきてしまいます。
そこは防振をとってさらなる対策をするよりありませんが、今の改善後の防音性能は賃貸の軽量鉄骨造の建物としては十分優秀です。
安心して次の入居者さんを迎えることができるでしょう。
まとめ
今回、空気層を設けて複構造にしたことにより、件の物件の防音性能は35 dB減衰から45 dB減衰まで10 dBも向上しました。
このように有効な方法で対策しないと防音性能はいつまでも上がらず、せっかく労力・時間・費用をかけても全てが無駄になってしまいます。
建物を建築した工務店やハウスメーカーでも防音の知識やノウハウがあるとは限りません。
餅は餅屋へ、防音は防音の専門家へ依頼するのが問題解決の近道です。
私たちBudsceneは様々な防音情報を発信しています。
是非正しい知識を得て防音の参考にしていただければと思います。
音にお悩みの方がいらっしゃいましたらご相談・ご依頼などいつでも承りますので、どうぞお気軽にご連絡ください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
防音アドバイザーBudscene並木でした。
質問コーナー
Q. 壁と防音層の隙間に関して、隙間を空ければ空けるほど防音性能は高くなるのですか?
A. 間隔が大きいほど効果が高くはなりますが、数10 mmの差であればそれほど変わらないでしょう。
あまり間隔を空けても部屋が狭くなってしまいますし、今回はとにかく壁と防音層を触れさせないという目的であったので、10 mmほどあれば十分です。
Q. 壁E・Fへの対策で、今後部屋C側にも部屋B・D側と同じ施工をしたら性能は2倍になりますか?
A. 今回防音性能は約10 dBほどよくなりましたが、これから部屋C側に同じ方法で施工したとしても同じくらいの性能向上は見込めないでしょう。
何故かというと、防音には空気層を設けることと同じく音を遮る材料の重さも大切であり、元の材料の重さが重いほど性能を上げるためには追加する重さが必要になるからです。
計算すると、性能を5 dB上げるためには元の重さの約2倍の質量が必要になります。
そのため壁E・Fの防音性能をさらに10 dB上げるためには、今回の施工で追加した重さ分も考慮しなければなりません。
Q. 防音において「空気層を設ける」「音を遮る材料を重くする」ということの他にも大切なポイントがあれば教えてください。
A. 固体を直接伝わる音に対しては防振がポイントとなります。
防振とはゴムなどの弾性体で振動を抑える方法です。
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