大手メーカーの防音室なのに防音性能が再現されない!メーカー側の対応は? -並木の突撃調査File1-
皆さん、こんにちは。
防音アドバイザーBudscene並木です。
先日、ピアノ講師をしているある方から私の元に1通のメールが届きました。
要約すると「大手建材メーカー製の防音室を購入した。音を50 dB小さくすると説明されたが、そんなに性能があるとは感じられない。本当に50 dBの防音性能があるのか確認してほしい。」という内容です。
これは重大なトラブルの匂いがしますね。
突撃調査に行ってみましょう。
目次
現場の状況
現場のお宅に到着しました。
防音室は吹き抜けもあって素敵な雰囲気です。
響きもちょうどよいので、この防音室をこのまま活用できるとよいのですが・・・。
施主であるピアノ講師Aさん、ハウスメーカーX社の設計士Bさん・住宅コンサルタントCさんの3名に、現在までの状況を詳しくお聞きしました。
経緯は以下のようです。
- 新築戸建ての建築をAさんからX社に依頼
- その際、自宅でピアノ教室を開きたい旨をB・Cさんに相談
大手建材メーカーZ社製の防音室をB・Cさんから提案される - スタンダードをはじめ様々なグレードがある中、音を50 dB小さくする価格300万円以上のプレミアム防音室を薦められ購入
- 自宅完成後にピアノを弾いたところ、どうも説明通りの防音性能が実現されていないようだ
ピアノを弾くと近隣から苦情が来てしまうのではないかと不安で、演奏すらできない状態に - 弊社にご相談 & 弊社防音ルーム(音を55 dB小さくする仕様)を体験 & Z社製の防音室の性能確認をご依頼
果たして、Z社製の防音室は本当に説明通りの防音性能をもっているのでしょうか?!
また、結果いかんではX社のアフターフォローが重要となってきますが、しっかりと誠実な対応をしてくれるのでしょうか。
性能測定
防音性能を測定する前に、まずはどういった方法で測定するのかを確認していきましょう。
測定方法
測定方法が違うと結果にかなり影響します。
そのため弊社では建築基準の規格に従って性能測定を行い、信頼性の高いデータを得ています。
さて、X社は一体どういった方法で性能を測定したのでしょう。
どうやら規格とはだいぶ異なる、Z社から指示された独自の方法で測定を行ったようですが・・・。
B・Cさんに確認したX社で行った測定方法とBudsceneの測定方法を表1.に示します。
表1. X社とBudsceneの測定方法
X社 | Budscene | |
測定方法 | ホワイトノイズと実際のピアノ演奏の音を、防音室内と建物外で測定
(Z社独自の方法) |
ピンクノイズを5オクターブバンドの周波数域で、防音室内と建物外で測定
(規格に従った方法) |
騒音計 | 普通騒音計、A特性 | 精密騒音計、A特性 |
測定結果 | ・防音室内で90~100 dBの音量が建物外で50 dB減衰 ・窓だけ45 dB減衰 |
次章表2.に記載 |
X社の測定ではピンクノイズではなくホワイトノイズを流し、騒音計も普通騒音計を使っていました。
これでは測定精度はかなり落ちてしまい、50 dB減衰できたという測定結果も怪しいといえます。
音量の測定
それではいよいよ規格に沿った方法により、弊社で防音性能を測定していきます。
果たしてX社と同じ測定結果になるでしょうか?!
<防音室内での音量測定>
<屋外での音量測定>
<ドア付近での音量測定>
さぁ、一通り測定してデータが揃(そろ)いました。
次は計算で防音性能を算出していきます。
測定結果
測定データから防音性能=室内の音量-室外の音量を計算して防音性能を求めました。
結果を表2.に示します。
表2. 防音性能の測定結果
周波数[Hz] | |||||
125 | 250 | 500 | 1000 | 2000 | |
壁① | 27.8 | 32.0 | 45.4 | 44.0 | 50.0 |
壁② | 29.8 | 38.3 | 47.4 | 45.4 | 53.3 |
窓 | 25.1 | 32.0 | 41.7 | 41.7 | 47.0 |
ドア | 24.8 | 22.0 | 30.4 | 36.7 | 38.6 |
表2.の数値は防音室内と室外でどのくらい音量が下がっているかを表しており、数値が大きいほど防音性能が高いことを意味します。
購入したZ社製の防音室は50 dBの防音性能であるはずですが、表2.を見ると音域2,000 Hzに対する壁の防音性能以外は50 dBに及ばないという結果になりました。
屋外で音を耳で聞いた体感としても、何の曲を演奏しているか把握できるほどでした。
測定結果を見やすくするため、縦軸に防音性能を、横軸に周波数をとりグラフ1.に示します。
本来満たしているはずの防音性能(50 dB減衰)のラインを赤で示します。
グラフ1.
低音域は一般的に防音するのが難しいのですが、Z社製の防音室も例に漏れず125 Hz・250 Hz周辺では性能が40 dBにさえ届いていません。
測定箇所別に見てみると、ドアの防音性能が一番低く、次に窓が弱いという結果になりました。
防音性能をD値で表すと
測定結果をD値で表してみます。
D値とは壁の遮音性能を表す数値で、例えばD-50と記載されていれば音を50 dB減衰させるという意味になります。
D-30、D-35、D-40のように 5 dB毎に区切られており、Dに続く数値が大きいほど遮音性能が高くなります。
Z社製の防音室をD値で表すとD-50ということになりますが、D-50を称するには周波数域全体でD-50のラインを超えていなければなりません。
グラフ2.にD値のラインと測定結果を示します。
グラフ2. D値と測定結果
グラフ2.を見ると、壁①はギリギリD-40、壁②もD-40、窓はD-35、ドアはD-30といったところでしょうか。
いずれにしても、Z社製の防音室には説明通りの性能(=D-50)はないということがわかりました。
ピアノの音量をどのくらい抑えられれば周囲に迷惑でないか
ピアノを全力で弾いた場合の音量は100 dBほどになります。
それを周囲の雑音程度の音量まで抑えられれば、ピアノを演奏しても雑音に紛れるので、近隣の人は気にならなくなるはずです。
そこで周囲の雑音はどのくらいの音量であるのかが重要となりますが、一般的には昼は45 dB程度、夜は35 dB程度の音量であるといわれています。
つまり、ピアノを弾く場合
- 昼 → 100-45=55 dBほど
- 夜 → 100-35=65 dBほど
の防音性能が必要となります。
従って現状のZ社製の防音室では、ピアノを安心して弾ける環境にはなっていないと判断できます。
弊社の防音体験ルームD-55仕様がちょうどピアノのための防音レベルですので、Aさんへ当初説明したD-50の性能でもギリギリというところです💧
Budsceneの所見と今後の方向性
私・並木からの所見と今後の対策の方向性について述べさせていただきます。
ピアノ教室の生徒さんが小学生なら鍵圧が弱いので、外への音漏れもそこまで気にならないかもしれません。しかし中学生以上であれば、外で十分認識できる音量かと予測します。
1,000~2,000 Hzの高音に関しては、窓を強化していく方向で進めるのが効果的でしょう。
現在の二重窓(PL3+A12+PL3のペアガラス)は同じ厚みのガラスなので、共振が起こりやすくNGです。
内窓として4+6のペアガラスをさらに追加するのが、コスト的にもよいでしょう。
それ以外の低音域を防音していこうとすると、内側に防音層をもう1層設けるなど本格的な追加工事が発生し、現在の部屋をそのまま活用することは難しくなります。
また、水切り(※)より下の方から音が聞こえてくる印象があるので、壁だけを強化してもそれほど大幅な性能向上はしないと思われます。
改善できたとしても、あと+5 dBくらいでしょうか。
※ 水切り・・・雨水が当たって家が劣化してしまわないように、基礎の上や窓の下に設置される金属の仕切り板。
元のスタートである「ピアノを弾いても近隣から苦情が来ない部屋」を目指すなら、最初から作り方も材料も違った選択になっていたのかな、と思います。
X社の対応
ハウスメーカーX社の対応としては、次のような回答がありました。
- 窓 → 補助金がでるので、もう1重設置することは可能
- 水切り → 検討する
- 全体的に作り直しの場合 → 新たに費用がかかる
・・・皆さんはこの対応をどう思いますか?
誠実だと感じるでしょうか?
私は疑問を覚えるのですが・・・。
だって、最初に約束した性能に満たないんですよ?!
全額保証して施主さまの希望を叶えるのが筋ではないですか?
ちなみにX社に「おや?」と感じた瞬間は他にもあります。
迷言を抜粋します。()内は私の突っ込みです。
X社の迷語録!
「逆にたまには窓開けて弾いてもいいぐらい。Aさんくらいのレベルになると他の方も聞いていて心地よいと思いますよ。」
(↑ だから防音性能が低いままでもよいでしょ?と言いたいようです💦)
「(近隣に)直接話していただいて。夜このぐらいで弾くんですけど、どうでしょうかって。逆にコミュニケーションだけで済んじゃうかもしれないんで。」
(↑防音室の意義全否定!ゴメンで済んだら警察要りません、音出るけどスミマセンで済んだら防音室要りません。そしてもし本当にコミュニケーションだけで済むのなら、Z社のプレミアム防音室も薦めるな!と。)
「夜だけ曲変えていただくでもいいですし。」
(↑いやいや、そもそもそういう気兼ねをしなくてよい環境、自由に演奏できる環境を得るための防音室であって・・・。何のために300万円もかけたんですか!)
「(防音層を)もう1重すると部屋も狭くなるし、お金もかかってしまうので。」
(↑そこは全額保証でしょう?!)
X社側はとにかく施主であるAさんを何とか言いくるめ、ごまかしてその場を収めようと必死!という印象でした。
責任を取りたくないという気持ちが透けて見え、寄り添う気はなさそうでした。
今回の突撃調査はリアルタイムで動画撮影を行っています。
X社側のセリフなどそのままですので、臨場感溢れる動画の方も是非ご覧ください。
【大手建材メーカーの防音室に突撃して遮音性能測定の実録!!!!!カタログに記載のある遮音性能が確保されていない時の施工側の対応は?】
Aさんの心情
対するAさんの心情をお伝えします。(ご本人の承諾を得ています。)
「-50 dBを目標にしていたのに、これでは違うと思う。」
「これだけ音が防げるようになるって説明されて買った防音室が、その性能に達しないんですよね。」
「1,000~2,000円じゃなくて何百万するものをメーカーが大体で売っているんだっていうことにすごく驚いています。」
「詐欺にあったような気持ち」
「私と同じような思いをする人がいなくなればいいなと思います。」
Aさんは防音室の建設当初、「建てるからにはちゃんとしたものにしたい、夜も気兼ねなく練習したい。」と性能に期待していたそうです。
防音室に関しては昔習っていたピアノ教室のイメージがあり、レッスンの音が外に全く聞こえていなかったので、それを頭に思い描いていたとのことです。
今回、これ以上詐欺まがいの防音室販売で犠牲者を出したくない!被害を拡大させたくない!という思いから、この件を公開することにOKしてくださいました。
感謝申し上げます。
まとめ
防音室を設置する際に注意するべき点は、Z社とX社のように、防音室を制作するメーカーと販売するメーカーが異なるということです。
大抵の場合、防音室の制作は建材メーカーや楽器メーカーが手掛け、カタログなどには透過損失値を性能として記載します。
透過損失値は部材のみの遮音性能で、工場出荷時にコンクリートで囲まれた理想的な環境で測定されます。
しかし、実際に防音室を作る際はドアや窓、換気や空調設備などで隙間が生じるため、完成後の遮音性能は透過損失値よりも低い遮音性能となります。
そして防音室を斡旋するハウスメーカーや工務店側が勉強不足であると、そういった知識がないままカタログの数値を鵜呑みにしてお客様へ販売してしまいます。
その結果、今回のような詐欺まがいの売買が成立してしまうのです。
皆さまには是非「市販の防音室を購入しても、説明通りの性能が確実に再現されるとは限らない」ということを覚えておいてほしいと思います。
これは大手製の防音室であっても同じです。
また、工務店やハウスメーカーによっては、もし性能が足りなかった場合に誠実に対応してくれないところもあります。
信頼できるメーカーを見極めるポイントは、「性能保証をしているかどうか」です。
防音室を購入する際は、施工後にきちんと性能測定を行い、希望の防音性能に達しているかどうかを確認・保証してくれるメーカーを選びましょう。
もし説明通りの性能が得られなかった場合は改善工事まで含まれている契約なのか、それとも別に追加費用がかかるのか、着地点をしっかりと決めておくことが大切です。
防音室を購入して後悔している方がいるというのは非常に残念なことです。
現在防音室を検討している方やこれから購入予定の方は、いい加減な販売に騙されないように、本当にこの防音室で大丈夫なのかを慎重に判断していただきたいと思います。
今回の発信が、世の中にはこういった無責任なケースも潜んでいるという注意喚起になれば嬉しいです。
私たちBudsceneは求められた性能をしっかりと実現できる防音室を提供しています。
もちろん性能保証もしているので、もし受注時の性能に満たない場合は追加費用なしで作り直しという契約をします。
ご相談・ご依頼などいつでも承りますので、どうぞお気軽にご連絡ください。
D-55防音ショールームの見学・体験もお待ちしております♪
最後までご覧いただきありがとうございました。
防音アドバイザーBudscene並木でした。
質問コーナー
Q. 建築基準の規格とは具体的にどういったものですか?
A. 具体的には下記の規格に従います。
- JIS A 1417(2000年):建築物の空気音遮断性能の測定方法
- JIS A 1419-1(2000年):建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法
- 日本建築学会推奨測定基準:建築物の現場における音圧レベル差の測定方法
Q. ピンクノイズとホワイトノイズは何が違うのですか?
A. 音の高さと強さの関係性が違います。
- ピンクノイズ・・・音の高さと強さが反比例するノイズ
- ホワイトノイズ・・・音の高さによらず、どの範囲の音域でも強さが変わらないノイズ
音は振動であり低い音ほど振動する回数が少ないので、低音域と高音域では同じ1オクターブでも測定する時に周波数(振動数)の幅が異なります。
従って、ホワイトノイズで測定すると低音域の方が音が弱く、また高音域の方が音が強く測定されてしまいます。
それを補正するために、規格では低音域においてエネルギーが強いピンクノイズを使用するように定められています。
Q. 精密騒音計と普通騒音計はどう違うのですか?
A. 精度が異なります。
精密騒音計は±0.5 dB、普通騒音計は±1.0 dBの精度となります。
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